「パリは燃えているか」(Paris brûle-t-il? / Is Paris burning?) というのは、第二次世界大戦中、ナチスドイツによる占領下のパリ解放を描いたノンフィクション文学及び米仏合作映画です(名作です)。

また、ツイッターをはじめとしたSNSに頻出するハッシュタグにもなっています。
言うまでもないことですが、イスラム国(以下 IS)によるパリ同時多発テロ発生を受けてのもので、一部ではそのテロ行為を称賛する表現として使用している人もいます。

■ なぜフランス・パリだったのか

パリ同時多発テロは、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、欧米先進国で発生したテロ事件としては最悪のものの一つとなりました。
ここで9.11以降の欧米で発生したテロをまとめてみます。

1. Madrid: マドリード列車爆破テロ事件
2004年3月11日
191名死亡
犯行声明:アルカイダ
2. London: ロンドン同時爆破事件
2005年7月7日
56名死亡
犯行声明:アルカイダ

パリの事件の直前には、レバノンのベイルートでも200名以上が犠牲となるテロが発生しています。
アフガニスタン、イラク、シリアをはじめとした中東地域では、これまでも大規模なテロが度々発生しており、決して欧米国内で発生したテロ行為のみを特別視するわけにはいきません。一方、欧米社会に与えたインパクトの面では一線を画するものであることは否定できないでしょう。

ではなぜ、今回テロの標的となったのはフランス・パリであったのでしょうか。

パリがテロの標的となったのは大きく以下の3つの理由が考えられます。

1. 地政学上の問題
2. 問題解決手段としての目的
3. イデオロギー上の問題

■ 地政学上の問題 多民族共同体としての欧州

テロの実行犯の内一人は、難民としてEUに入っています。他にも移民をルーツにもつフランス人、ベルギー人が犯行の中心となっており、ただでさえセンシティブだった移民問題はよりデリケートな課題となることは避けられないでしょう。

ヨーロッパは現在では様々な民族が共存しており、他民族大陸、他民族国家になっています。
人種のサラダボウル(人種のるつぼ)とは移民国家であるアメリカ、とりわけニューヨークを指した言葉でしたが、今ではヨーロッパ諸国のほうがそれを指すにふさわしいのではないでしょうか。(米国は今も移民国家であることは変わらず様々な人種が共存していますが、若干内向き・閉鎖的な雰囲気が漂っています。特に共和党右派のティーパーティー系支持層に見られる排他性が広がっていることは留意すべきでしょう)

フランスも多くの移民を受け入れており、伝統的に混成民族からなる国家です。サッカーフランス代表がワールドカップとEUROを連続で制し栄華を極めた1998年から2000年ごろは、代表は民族融和の象徴とされました(ジダン、アンリ、ティエリ、ヴィエラ他、中心選手の多くに移民二世三世がいました)。
このようにフランスはもともと移民が入りやすい国家であると言えます。

また、シェンゲン協定に言及しないわけにはいきません。
シェンゲン協定とは、ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定でです。つまり、シェンゲン協定に加盟している国の間では、(物理的移動については)国境は無いも同然です。
実際、徒歩でも国境を越えることができるし、列車などで国境を越える際もパスポートすら必要ありません。欧州2カ国以上の周遊旅行をした人は、最初の国入国審査と欧州から帰国する際の出国しかなかったことが分かるかと思います。
認識しておくべきは、通貨と同様、英国はEUに加盟しているもののシェンゲン協定は非加盟であるということです。

今回のテロにおいては、国家間を比較的容易に移動できることが要件の一つになったようなので、この時点でイギリスは優先的な対象からは外れます。

では、もう一つの大国、ドイツであった可能性はあったのでしょうか。
対象の選択肢としては当然あったと考えられます。しかしながら、ドイツは軍事上で特殊な立ち位置にあり、現時点でテロの対象にするのは得策ではないと判断された可能性があります(あくまで可能性程度ですが)。
ドイツは過去二度の世界大戦において戦火の中心となった経緯もあり、ドイツ首相も国防相も軍に対する指揮権を持ちません。このため戦力をほぼNATOに供与しており、強大な軍事力は保持していますが自国に主導権がない状態です。

このような状態のドイツに対し、テロ攻撃を実施した場合どのような反応が考えられたでしょうか。
国内の移民排斥ムードは高まり、ナショナリズムは隆盛を極めるでしょう(今でもそのムードはありますが)。前述したような経緯である程度抑制されている軍事力を積極的に行使する流れも予想されます。
このような理由もあり、ドイツの主要都市をターゲットとするというインセンティブが削がれた可能性も考えられます。

このような地政学上の立場は、フランスが標的になった理由の一つでしょう。
次回のエントリーでは「問題解決の手段としての目的」「イデオロギー上の問題」について考察してみます。

続く