シンガポールは、明るい北朝鮮と呼ばれることがあります。

一人当たりのGDPはUSD 50,000- を上回り、世界で最も一人当たりの所得が高い国のひとつです。世界銀行による「世界で最もビジネスに適した都市」にも選ばれるシンガポールですが、なにをもってして「明るい北朝鮮」なのでしょうか。

実は、シンガポールは建国以来一党独裁制が続く独裁国家なのです。

■ 良い独裁/悪い独裁

シンガポールは独裁国家と書きましたが、正確に言うと普通選挙制ですが、建国以来与党が一度も交代したことがない、一党優位になっています。選挙は行われていますが、言論は大きく制限され、メディアも統制されています(ついでに言うと、選挙での投票は権利ではなく義務です。特別な理由なく投票を棄権した場合、登録抹消か罰金が課されます)。

政府に与えられた権限は絶大なもので、政府にが実施すると決めた政策は個人の権利などに必ず優先し実施されます。

こういった政治体制は新興国に多くの見られ、開発独裁国家と呼ばれます。
開発途上国では、すべての手続きに民主的な手順を要していると、膨大な時間がかかる上最適な政策が実行できないことがあるのです。

誤解している人が多いのですが、すべての独裁制が悪であるわけではありません。

「優れた独裁者」に率いられる限りは、良い統治形態になりえます。

過去のローマ帝国や中国で、「賢帝」と讃えられた王たちは、絶対的な権力を持っていましたが正しい判断をした(と国民が認識した)「良い独裁者」だったわけです。

良い独裁制の利点は、ポピュリズムに傾くことなく最適と信ずる政策を実施できることです。民主主義はどうしても短期的に個別のステークホルダーにとって好ましい政策を提示し、人気取りの政策合戦にならざるを得ない部分があります。

問題は、「悪い独裁者」が出現する可能性を排除できないことと、よく言われるように「権力は必ず腐敗する」が高確率で実現してしまうことです。

■ シンガポールの未来・あり得たかもしれない北朝鮮の未来

翻ってシンガポールを鑑みるに、約半世紀にわたって「優れた独裁」が行われた稀有なれいです。

実はかなりの格差社会であり、地上の楽園と呼ぶには程遠いですが、実際に多くの国民が現政府を支持しています。世界でも類い稀な発展を遂げ、アジアを代表する国際都市としての地位を確立するに至った政府の手腕を国民は信じています。
また、独裁とはいっても邪悪ではなく、国民のために数多くの政策が実施されています。同国を訪れたことがある人であれば、都市国家でありながら緑に溢れたランドスケープも思い浮かぶでしょう(余談ながら、シンガポールの初代首相であったリー・クアンユーにはChief Gardenerというあだ名がありました)。

高度に発展した管理社会。
北朝鮮が当初に目指した、あり得たかもしれないもう一つの未来はこのようなものであったのかもしれません。

北朝鮮にとっての不幸は、首領が「悪い独裁者」であったことと、冷戦下の東西のイデオロギーの中で圧倒的に不利な側についていたことです。

「明るい北朝鮮」であるシンガポールですが、この先も安泰とは言い切れません。
先に書いた通り、「悪い独裁者」が出現する可能性は常にあるのです。