日本の会社は、あらゆるサービスを提供しようとします。前回のエントリーでも書きましたが、企業内の部活動、福利厚生、社宅など、いろいろなサービスを提供していて、会社による従業員の囲い込みの様相を呈しています。
もちろん、充実した福利厚生自体はよいことです。個人は利用できるものはきっちり利用すべきです。
問題は、本来は国や社会が提供しなければならない機能を企業が提供することで、副次的に非常に窮屈な社会になってしまっていることだと考えます。
■会社内セーフティーネット
具体的にはどういうことかというと、職業安定機能を企業が負担していることが挙げられます。
ご存知の通り日本では終身雇用・年功序列を基本とした組織運営がされています。
一度雇用された人は基本的に辞めさせられることはなく、定年を迎えるまで雇用を維持されます。もちろん絶対ではありませんし、2000年以降の日本ではリストラの一環での人員整理もそう珍しいことではなくなってきました。
ですが、会社側でもよほど経営が厳しくなってきたりしない限りは、いくら余剰の戦力、ミスマッチの人材をかかえていたとしても解雇することは非常に難しいのが事実です。
近年の事業環境の変化により、終身雇用を維持できなくなりつつある企業もありますが、基本的には一度雇い入れたら会社が沈むまで雇用が保証される。これが終身雇用です。
一方で、日本では一度職を失うと、再就職するのが非常に難しい構造になっています。
卒業後に新卒一括採用で就職した後、定年するまで同じ会社で勤め上げるのが一般的なモデルケースでした。
逆に言うと、新卒一括採用の機会を逃したり脱落すると、一般的な職に復帰するのが不可能といえるほど困難な状況に陥るのです。
つまり、雇用の安定というセーフティーネットは、一度正社員という形で企業の中に入れば、「企業により」担保されるが、その枠から外れた人には雇用の安定は存在しないのです。
本来は雇用の安定という福祉は、国家なり社会なりが担保すべき問題ですが、それを企業に丸投げしているために、各企業の中での閉じられた社会でしかセーフティーネットが機能しないというのが現状です。
■石にかじりついてでも会社にしがみつけ
というわけで、日本では会社にいる限りは超安泰、さもなくば地獄行き、という社会が成立しています。
極まれに成功した自営業者などもいますが、圧倒的少数派です。
この結果、どのような弊害が生まれているでしょうか。
会社組織の中から外れるということは、前述の通り非常に困難な状況に陥ることを意味しています。
したがって、上司からどんなに理不尽な要求をされようとも、どれほど仕事がきつかろうとも涙を飲んで従わなければならないことがほとんどです。
「バカヤロー、そんなことやってられるか!」といいたい人はたくさんいると思いますが、それをできる人はほとんどいません。
本来は企業は賃金を提供し、従業員は労働力を提供している対等な関係ですが、パワーバランスは崩れ圧倒的に会社の力が強くなり、従業員には閉塞感が漂うことになります。
(その他、雇用の流動性が失われ、社会全体で見ると適切な人材配置が行われず生産性が低下すること。新卒時の就職を逃すと企業への就職が難しいため、起業をするハードルが上がる、などの数々の弊害があります。)
■汝会社を愛したまえ
新卒一括採用から始まり終身雇用でほとんどの人材が同じ会社で過ごすことになるため、社員の帰属意識は会社に向かいます。また、企業側としても長期にわたる研修や、場合によっては合宿などで、社員の一体感を高めます。
また、各種の福祉・サービスを提供してくれる主体も会社であるため、会社に「お世話になっている」状態になります。
会社に対して不満をもつ人は当然たくさん出てきます。とはいっても、会社の庇護の下を離れられるわけではないので、飲み屋でくだを巻くのが精一杯といったことになります。
「いろいろあっても、仕事があるのはありがたいことだよ。いい会社だよ」と自分に言い聞かせて、定年を目指して働き続けるのです。
■会社主義国家
結果として、個人は個人の選択ではなく、企業(組織)の歯車として既定されます。
会社が個人のキャリアも考えますし、人員配置も会社が行います。
「いい会社」にいたってはご丁寧に会社がライフプランまで講習してくれたりします。
前述の通り、社会が提供すべき福祉を会社が提供するために、会社は文字通り個人から見た社会そのものになります。そして、個人に対して強大な力を持っています。
これは国家がすべてを計画する計画経済、社会主義の形そのままではないでしょうか。
社会主義=悪、ではないように、この仕組みがすなわち悪いわけではありません。「世界で最も成功した社会主義国家」と表題したように、ある時点までは確かに成功していたのです。
■崩壊する終身雇用
ここまで述べてきた中で、「終身雇用」とか個人は会社内では守られている、と書いてきましたが、そこに違和感を覚えた人もいるかと思います。
そうです、実は、現在では「終身雇用」は崩壊しつつあります。
様々な環境の変化から、終身雇用は崩壊し、ここまで述べてきた仕組みは維持できなくなりつつあります。が、国ではなく企業が福祉を提供する構造自体は変わらないため、企業は崩壊しても国のセーフティーネットは働かないということになります。
数々の社会主義国家が崩壊や転換を迫られたように、日本的会社主義も転換のときを迎えているのです。